“Shank1欠落したマウスは樹状突起スパインが小さく、シナプス伝達効率も減弱するが、特殊な学習では増強する。”

  Albert Y.H., Kensuke F, Sala C, Juli G.V., Jubin R, Mollie A.W., Fleur L.K., Clifford C.S., Tsuyoshi M, Mark F.B., Richard J.W. and Morgan S.

    “Smaller Dendritic Spines, Weaker Synaptic Transmission, but Enhanced Spatial Learning in Mice Lacking Shank1”

  J.Neurosci 28: 1697-1708 (2008)

 樹状突起スパインの大きさや形はスパインのキャパシティと相関がある(Kasai et al., 2003; Matsuzaki et al., 2004)。小さく、細いスパインはシナプス可塑性としての役割があり、一方大きく、安定したスパインは“記憶”の構造としての役割がある(Kasai et al., 2003;)。しかし、これらの定義をサポートする直接な証拠がまだない。2001年に発表された著者たちの論文によると、海馬神経細胞の培養下でShankを強制発現させた結果、Shankはスパインの大きさを強く促進させ、特にheadにおいて顕著であった(Sala et al., 2001)。また、ヒトにおいてShank 3遺伝子での変異は自閉症スペクトラム障害に関連している(Durand et al., 2007)ことから、著者らはShankファミリータンパク質がヒトの認知発達において重要な役割を果たしていると考えている。

今回著者らは、in vivoでのShankの機能を調べるために、脳に発現するShank 1の遺伝子を破壊したマウスを作製した。その結果、PSDの組成タンパク質の変化が見られ、スパインとシナプスが小さくなり、シナプスの伝達効率の減弱に関連があることを示した。また行動に関しては、Shank 1‐/mutantマウスにおいて、海馬のLTPやLTD、late-phase LTPが正常であることにも関わらず、海馬に依存したcontextual fear memoryにおいて不完全であることが分かった。驚くほどに、Shank 1‐/mutantマウスはeight-arm radial mazeでの空間学習が強化された。しかしこれは、情報の長期維持の障害と関連があることが分かった。以上のことから著者らは、Shank 1が小さいスパイン(未熟なスパイン)の成熟や、より大きい可塑的なスパイン(成熟したスパイン)に、より安定的なスパインになることに促進的に働き、細胞の成熟過程において正常な認知発達のためにShank 1が必要とされていることを示唆した。