Noel C. Derecki et al. Wild-type microglia arrest pathology in a mouse model of Rett syndrome. Nature 484: 105-111 (2012)

レット症候群マウスモデルでの野生型ミクログリアによる発症抑制の仕組み

レット症候群は進行性の神経疾患であり、10,000〜20,000人に1人の確率で女児に起こる疾患である。レット症候群と診断された約95%がメチルCpG結合たんぱく質2遺伝子(MECP2)に変異を持つことが特徴となっている。MECP2は多くの組織で発現するが、この疾患はニューロンの機能障害に起因している。しかし、最近の研究でグリア、特にアストロサイトもレット症候群の病態生理に影響を及ぼしていることがわかった。

今回著者らは、レット症候群のモデルマウスを用い、ミクログリアの役割について検討した。放射線照射を受けたMECP2ヌルのマウスに野生型のミクログリアを移植したところ、ミクログリアの表現型を持つ骨髄由来の骨髄細胞による脳実質の生着が起こり、疾患の発症が抑制された。しかし、鉛で頭蓋骨を遮蔽し放射線照射を受けたマウスに同じようにミクログリアの移植を行ったところ、脳実質への生着は見られなく疾患の発症も認められなかった。また、MECP2ヌルマウスにLysmcreにより骨髄細胞にMECP2を標的発現したところ、疾患の症状は著しく軽減した。よって様々な手段により、MECP2ヌルのマウスの脳内に野生型のミクログリアを発現させると、病態の発症が抑制されることがわかった。

また、アポトーシス標的のホスファチジルセリン残基をアネキシン?で遮断して食作用を阻害したところ、ミクログリアによる有益な影響は低下した。

以上の結果から著者らは、レット症候群ではミクログリアの食作用が重要であることを示している。今回のデータはこの疾患の病態生理にはミクログリアが主要な働きをすることを明らかにし、骨髄移植が実行可能な治療方法となる可能性を示している。