Proc Natl Acad Sci U S A. 107, 8830-5, (2010)

Trans-synaptic EphB2?ephrin?B3 interaction regulates excitatory synapse density by inhibition of postsynaptic MAPK signaling

(シナプス前部のEphB2とシナプス後部のephrin-B3の相互作用はシナプス後部におけるMAPキナーゼのシグナルを抑制することで興奮性シナプスの密度を制御する)

Andrew C. McClellanda, Martin Hruskaa, Andrew J. Coenena, Mark Henkemeyerb, and Matthew B. Dalva

神経系の機能は、個々のニューロンが受け取るシナプスの数によって、精緻に制御されているが、そのシナプスの数を制御する細胞機構、分子機構は、まだ不明な点がある。本研究において著者らはシナプス後部のephrin-B3に注目し、そのシナプス密度を制御するメカニズムを解析した。

shRNAによる発現抑制、そのrescueや過剰発現と、免疫染色、mEPSCの解析を組み合わせることで、シナプス後部のephrin-B3が、受け取るシナプスの密度を決定づける要因であることが明らかとなった。次にephrin-B3によるスパイン形成に与える影響を解析したところ、分散培養におけるshRNAを用いた発現抑制によりスパインとシナプス密度が同じように減少したのに対して、ノックアウトマウスのスライス培養では、スパイン密度は減少したもののシナプス密度は減少しなかった。この違いのメカニズムを明らかにするため、野生型マウスとノックアウトマウスのニューロンの片側を電気穿孔(electroporation)法により標識した後、混合して分散培養した。その結果、野生型同士、ノックアウトマウス同士ではシナプス密度が正常に保たれるのに対して、野生型とノックアウトマウスの混合培養では、細胞間のephrin-B3の発現レベルの違いにより、競合的にシナプス密度が制御されていることが明らかとなった。続いて、HEK293T細胞にephrin-B3を発現させ、神経細胞と共培養する実験から、シナプス前部のEphB2がシナプス後部のephrin-B3のリガンドであることが推定された。そして、どのようにephrin-B3がシナプス密度を制御しているかを明らかにするため、ephrin-B1, B2にはなく、ephrin-B3に特異的な配列を解析したところ、MAPキナーゼであるErkに結合する可能性のある領域が含まれていることが明らかとなった。このことから、免疫沈降やpull down assayを行ったところ実際に結合することも示された。この領域の変異体を用いたrescue実験による解析から、実際にシナプス密度の制御に必要であることも確認された。これがMAPキナーゼの経路の活性化や抑制に依存しているかを明らかにするため、恒常活性型、優勢阻害型のMEK (MAPキナーゼキナーゼ)を用いて、Erk1/2を活性化、或いは抑制したところ、shRNAを用いたephrin-B3の発現抑制や、ノックアウトマウスと野生型マウスの混合培養によるシナプス密度の減少が、優勢阻害体のMEKの発現によってrescueされた。MAPキナーゼのシグナルはシナプス密度の制御に関して、負の調節を担っていること、ephrin-B3がこの経路に対して抑制的に働いていることが明らかとなった。最後にephrin-B3がErkの局在に与える影響を解析したところ、通常、Erkは核において少ないが、ephrin-B3のknockdownにより核における局在が増加することが明らかとなった。ephrin-B3はErkを核に行かせないか、シナプスに保持することで、シナプスの数を制御しているかもしれない。

以上ephrin-B3が、EphBと共に細胞間の競合的な相互作用を通して、MAPキナーゼシグナルを負に制御することにより、シナプス密度を制御していることが明らかとなった。本研究によりシナプスの成熟に寄与し、個々のニューロンから受け取る興奮性シナプス入力の数を制御する機構が明らかとなった。