090928 抄読会サマリー

A functional role for adult hippocampal neurogenesis in spatial pattern separation.

Clelland CD, Choi M, Romberg C, Clemenson GD Jr, Fragniere A, Tyers P, Jessberger S, Saksida LM, Barker RA, Gage FH, Bussey TJ.

Science. 2009 Jul 10;325(5937):210-3

ほ乳類の海馬歯状回は、複数物体の場所の区別(special discrimination)に重要であると考えられている。また歯状回では生涯にわたって神経細胞が発生する部位でもある。この新生神経細胞が海馬機能にどのように関与しているかは明らかではない。筆者らは、?放射線局所照射によってほぼ完全に新生神経細胞を消去したマウス、?Wntシグナルのdominant negativeを導入して半分程度新生神経細胞を除去したマウスに対して、a) 近い、あるいは遠い二つの物体の場所を区別する課題 (spatial discrimination task)と、b)複数の物体とその場所とを連合させる対連合課題 (paired associates learning)を行った。

二種類の新生細胞除去マウスではb)連合学習はコントロールと同程度の能力が保たれていた。また、a)のspatial discrimination taskのうち二つの物体が離れていた場合、新生細胞除去マウスとコントロールでは差はなかった。しかし、二つの物体が近接している場合は、新生細胞除去マウスの成績が有意にコントロールに比べて悪かった。つまり、海馬歯状回新生神経細胞は、近い場所にある二つの物体を区別する能力に関与している事がわかった。

これらの事実は、物体と場所との連合や、離れた空間情報はentorhinal cortex →(海馬歯状回を介さずに)CA3に直接入力する回路が関与するという報告と一致する。またこれまで神経幹細胞除去による記憶・学習に対する効果に関して様々な報告がなされていたが、先行研究は、spatial discriminationにおいて二つの物体の距離というパラメーターを考慮していないために、本研究とは異なる結果が得られていた可能性がある。