脳科学を超えた新しい学問分野を創設する

研究テーマ

記憶学習、情動などの高次脳機能は、ヒトにおいてもっとも発達した機能であるが、科学が進んだ現代社会においても、科学に残された最後の秘境となっている。医学においても精神・神経疾患の研究は、現在の最も重要な学問領域の一つとなっている。当分野は、高次脳機能の基盤となっているシナプスの発達・維持・可塑性機構が、DNAに刻み込まれた遺伝情報と外界からの学習情報とによって二重制御されている分子メカニズムを明らかにし、遺伝子レベルでの機能が行動に結びつくまでの一連の流れを統合的に捉えることを目指している。

上記の目的を達成するため、

  1. シナプス形成機構の研究
  2. シナプス可塑性における細胞骨格の役割に関する研究
  3. 高次脳機能障害(アルツハイマー病、うつ病などの精神・神経疾患および放射線障害など)に関する神経生物学的研究
  4. ドレブリンをシナプス機能の指標とした機能画像測定法の開発とヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた安全性薬理試験への応用

を行っている。
具体的には、初代培養神経細胞や遺伝子改変動物を、分子生物学、細胞生物学、電気生理学、行動解析学、薬理学、イメージングなどの技術を用いて、学際的に研究している。

1. シナプス形成機構の研究

新規ドレブリン結合タンパク質spikarspine and karyoplasm protein)のシナプス形成における役割

シナプス形成・スパイン形成に関わる分子は多く同定され研究されているが、その多くはシナプスの細胞膜に存在する細胞接着分子やアクチン重合の調節に関わる低分子量Gタンパク質調節分子であり、F-アクチンに直接結合して働く分子がどのように機能しまたシグナルの受け取りを行っているかは不明な点が多い。我々は、シナプス後部のF-アクチン構成タンパク質であるドレブリンに注目し、その周辺分子を解析することによって、新しいシナプス形成・スパイン形成機構を明らかにする事を試みている。酵母two-hybrid法により新規ドレブリン結合タンパク質を探索し、これまでシナプスタンパク質として同定されていない分子に注目し解析を行ったところ、この新規ドレブリン結合タンパク質spikarは樹状突起でスパイン形成に関与し、また核では転写調節因子として機能していることが分かった (Yamazaki et al., 2014)。現在、このタンパク質のノックアウトマウスを作成し固体レベルでの解析を進めているところである。

文科省 科研費

山﨑博幸 基盤(C) 「転写調節因子によるスパイン形成機構の解明」

spikar1     spikar3

2. 成熟シナプス可塑性における細胞骨格の役割

シナプス可塑性に付随して起こるアクチン細胞骨格の変化

バンカー法による初代海馬神経細胞培養系は低密度で培養できるため、神経細胞の微小構造である樹状突起スパインを直接観察することができる優れた実験系である。我々はこの系を用いて、シナプス可塑性に付随して起こるスパインの構造的可塑性をアクチン細胞骨格の変化に着目して解析し、ドレブリンを含む安定アクチン (F-actin & drebrin) と含まない動的アクチン (F-actin & cofilin) とのバランス調節機構がシナプス可塑性の基盤として重要であることを明らかにした (Mizui et al., 2014)。また、タイムラプスイメージングやFRAP (光退色後蛍光回復法) を用いて、その分子メカニズムの解明を進めている。さらに、従来の光学顕微鏡の分解能の限界(200 nm)を大きく上回る超解像顕微鏡(分解能: 20 nm)を用いることにより、樹状突起スパイン内部におけるドレブリンを始めとするポストシナプスタンパク質のより詳細な性質を明らかにしようとしている。
STORM

 

重粒子線およびX線照射による一過性のシナプス細胞骨格変化と高次脳機能への影響

生体に放射線照射後、神経細胞のシナプス機能不全が引き起こされるために脳機能の障害が引き起こされていることが、行動解析および免疫組織染色により明らかになりつつある。その分子基盤を解明するために、培養神経細胞(in vitro)および動物(in vivo)を用いた放射線暴露実験を開始している。加えて、X線照射と重粒子線照射の効果の違いを比較するため、重粒子線を用いた実験も進めている。

文科省 科研費

小金澤紀子 若手(B) 「放射線障害による記憶障害とその保護:シナプスタンパク質局在変化に着目した解析」

ドレブリンのシナプス可塑性における役割

ドレブリンの完全ノックアウトマウス (DXKO) およびアイソフォーム変換機構欠損マウスA (DAKO) を作成し、ドレブリンのシナプス可塑性における役割解明を行っている。学習行動、シナプス可塑性への影響を調べたところ、DAKOマウスでは目立った脳の形態異常はなかったが、恐怖条件づけ記憶の障害と海馬シナプス可塑性の障害がみられた。現在その異常に関わる分子メカニズムを研究中である。さらに、DXKOマウスでは神経細胞移動と嗅覚に異常が起きていることが示唆されている。

文科省 科研費

小金澤紀子 若手(B) 「超解像によるNMDA受容体サブユニット局在調整機構解析」

 

3. 高次脳機能障害(アルツハイマー病、うつ病などの精神・神経疾患および放射線障害など)に関する神経生物学的研究

海馬神経細胞を用いたスパイン脆弱性のメカニズムに関する研究

アミロイドベータや酸化ストレスといった様々なストレスが細胞レベル、特に樹状突起スパインにどのような影響を及ぼすかを、ドレブリンの局在変化に着目して研究している (Ishizuka et al., 2014)。下図(左)はアルツハイマー病におけるドレブリンのスパイン集積減少モデル。下図(右)はアミロイドβオリゴマー(ADDLs)によってドレブリンのスパイン集積が減少した培養神経細胞。

文科省 科研費

石塚佑太 若手(B) 「アルツハイマー病細胞モデルにおけるエピジェネティック制御とシナプス機能の研究」


ADDLs model   ADDLs2

セロトニン受容体シグナルによるドレブリンを始めとしたシナプス機能タンパク質の局在変化とうつ病の関連性の研究

ドレブリンはポストシナプスであるスパインに局在し、スパインの形態・機能をアクチンを中心とした細胞骨格を介して制御していると考えられている。これまでアルツハイマー病の患者脳にてドレブリンが減少していることが知られているが、当研究室によりセロトニンシグナルがドレブリンの局在変化を制御していることが示唆された (Roppongi et al., 2013)。このことから、うつ病においてもドレブリンの局在変化がその発症・症状に関与していることが考えられる。当プロジェクトでは、セロトニンシグナルとドレブリンを含めたシナプス機能タンパク質の変化に着目して研究を進める。

文科省 科研費

六本木麗子 研究活動スタート支援 「セロトニン受容体による樹状突起スパインの細胞骨格制御機構の解明」

初代培養神経細胞を用いたうつ病バイオマーカー候補のシナプス作用の解析

これまでの研究でうつ病の指標となりうるバイオマーカーを探索し、あるタンパク質がうつ病のバイオマーカーの候補となった。バイオマーカーを用いてうつ病の発症およびその症状を定量的に測定することができれば、うつ病の予防や治療におけるブレイクスルーとなると考えられる。現在そのバイオマーカー候補を培養神経細胞に過剰発現させ、シナプス機能への作用を明らかにすることを目的としている。過剰発現させた神経細胞の樹状突起スパインの形態およびシナプス機能タンパク質の一つであるドレブリンの動態を解析する。

文科省 脳科学研究戦略推進プログラム(SRPBS)

課題F(健康脳)

「うつ病の異種性に対応したストレス脆弱性バイオマーカーの同定と分子病態生理の解明」

4. ドレブリンをシナプス機能の指標とした機能画像測定法の開発とヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた安全性薬理試験への応用

ドレブリンのスパインへの集積度を再現性よく、定量的に、ハイスループットで測定する方法の開発を行っている。またこの技術をiPS由来神経細胞に応用し、ヒト神経細胞を用いた安全性薬理試験のためのガイドライン作成を目指している。

具体的には、ドレブリンのシナプス後部への集積度をイメージングにより測定することにより、齧歯類培養神経細胞のシナプス形成過程及び機能成熟度を定量的に評価することに成功している。また、シナプス機能障害時に集積が低下することも見いだしている。そこで培養神経細胞を用いて、ドレブリンをマーカータンパク質として シナプスへの特異的集積を定量解析し数値化する。この数値に基づきシナプス形成・成熟度、さらにはシナプス機能障害を定量評価する薬理試験法を提案する (drebrin-imaging based evaluation of synapses 法:DIBES 法)。また、ヒトiPS細胞由来神経細胞等を用いた新規in vitro医薬品安全性評価法の確立を目指して、ヒトiPS細胞由来神経細胞等を機能的な脳神経に近づけるための開発、並びに、医薬品の副作用予測を可能にするin vitro定量的解析技術の開発を行っている。

NEDO (独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)

平成26年度イノベーション実用化ベンチャー支援事業

「成熟シナプス機能を有するヒトiPS細胞由来分化細胞の開発」(株式会社リプロセル、国立医薬品食品衛生研究所との共同研究)

厚労省 科研費

「ヒト iPS 細胞由来神経細胞等を用いた新規 in vitro 医薬品安全性評価法の開発」

「ヒトiPS分化細胞を利用した医薬品のヒト特異的有害反応評価系の開発・標準化」

AMED 研究費

「ヒトiPS分化細胞技術を活用した医薬品の次世代毒性・安全性評価試験系の開発と国際標準化に関する研究」

 

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